ムーミンがどうしても見たい!原作者からクレーム?昭和の名作アニメに隠された謎

昭和生まれの私たちにとって、「ムーミン」と言えば「ねぇムーミン、こっち向いて」のムーミン。
岸田今日子さんのムーミンや広川太一郎さんのスノーク、そして印象的な歌声のスナフキンのギターをかき鳴らす歌も聞いて見たいという人も少なくないはず。
道徳的な教えもふんだんにあった「昭和のムーミン」が今なぜ放映されなくなったのか、その謎に近づいてみたいと思います。
「ムーミン」の基本が知りたい
原作者はトーベ・ヤンソン

出典:http://www.panevezys.lt/lt/turistams/renginiai/showContent/2911.html
今では子育て中のママにも大人気のムーミン。北欧風のインテリアに組み合わせて、とてもおしゃれな使い方ができる雑貨などにもデザインされていますね。
そのムーミン。作者はトーベ・ヤンソンというフィンランド出身の画家であり小説家の作った北欧神話に由来する「トロール」をモデルにした物語です。
「トロール」はスウェーデン語で「魅惑する」という意味の妖精のことで、数々の民話やファンタジーの世界によく登場しています。
北欧の人々にとっては、身近な存在なのですね。
丸裸のムーミンのラストネームが「トロール」だということもあり、ヤンソンはこの妖精をイメージしたのかと思われがちですが、彼女が独自に作ったオリジナルの生き物だということが定説です。
もとは純文学だったムーミン

出典;http://moomin.co.jp/history
トーベ・ヤンソンは画家でもありますが、小説家としての顔も持つ芸術家。
最初のムーミンは、1944年には挿絵としてのムーミンが発表されていましたが、彼らが自由に活躍するのは小説「小さなトロールと大きな洪水」から。
次々と、彼女の描く北欧の妖精たちの物語が話題になりました。
画家としてのヤンソンもムーミンの漫画を描き、連載も開始されました。
彼女の家族も制作に携わり、アイデアや制作に関わってきました。
怖かった「ヤンソン版初期型ムーミン」

出典:http://davidgalletly.com/blog/2007/11/13/recommendations-moomin-the-comic-strip.html
ところがこのトーベ・ヤンソン版のムーミン。今でこそステキなインテリアに合う北欧風のシンプルでおしゃれなラインが魅力のイラストですが、彼女が書いた初期のムーミンはとてもおどろおどろしい人物がたくさん出てきて、「怖い」と思う子どもも痛そうです。
当方などは実際そうで、昭和44年頃に買ってもらったトーベ・ヤンソン版の漫画を見て(ゼンゼン、ムーミンじゃない!)と悲しくなったものです。
もちろん、今は少し作風が変わり、穏やかですてきなイラストであることは今は認められますが、当時はそのように感じていました。
日本でもアニメが放送開始
日本の子どもたちに受け入れてもらいやすく

出典:https://www.youtube.com/watch?v=a8dWhHtFPsc&t=14s
そんな「ムーミン」。日本のアニメ界が白羽の矢を立てアニメ化にしようと計画され、かわいらしい丸みを帯びたデザインにすることにしたそうです。
キャラクターデザインは、アニメ界大御所の「大塚康生」氏。「大塚康生」氏はあのジブリの宮崎駿氏が東映動画時代に直属の上司として指導をした人物。ほかにさまざまな有名な日本のアニメ作家に影響を与えました。
昭和アニメの「ムーミン」は原画とは全く違うイメージですが、原作者にもきっと気に入ってもらえるはず!と期待していたのの、ヤンソンからは「別もの」と受け取られその後立て続けに要望が彼女側から届いたそうです。
東京ムービーから虫プロへの交代

出典:https://www.youtube.com/watch?v=EoOA8CE_pIY&index=9&list=PL4Z9d8GdY0rS4HwRWYOjcEtfFlU2DowFV
昭和のムーミンは昭和44年版と昭和47年版の2回の放送がされましたが、その中でも制作会社の交代などがあり絵柄が大幅に変わったことを子どもたちも記憶しているかと思います。
トfからのクレームもありながら良い作品を作ろうとしていた東京ムービーではありましたが、当初から赤字続きだったことと同時期に「ルパン三世」の制作なども重なり、当初の契約通りに26話で東京ムービー版は終わりにしたとのこと。
次に担当したのは、虫プロ。日本を代表する漫画家・アニメ界の重鎮だった手塚治虫さんのプロダクションです。
何度かの修正でさま変わり
虫プロに交代してから、ムーミンの絵柄はさらにメルヘンチックに変わり、より子どもたちに受け入れやすいかわいさが加わりました。
日本のアニメ界に大きな貢献をした大塚康生さんによると、「東京ムービー版はよりムーミンが柔らかく描かれていたけれど、虫プロ版で原作に風合いを似せて作られたのでは。」ということです。
平成版ムーミンとは別もの
こうして「昭和ムーミン」は2度の転換期を経ながら子どもたちに愛されたアニメとなりましたが、それから20年ほど経った「平成版ムーミン」はより原作者の意図を汲んで、原作に近い作風とストーリーで愛されました。
若い人にとって「ムーミン」とはもはやこちらの「平成版ムーミン」の方が印象が強いかもしれませんね。
クレームの原因になったポイントは?
ヤンソンの厳しい意向
それでは「昭和ムーミン」のどこが原作者にとって違和感があったかというと、「これは自分のムーミンではない」という端的な理由だそうです。
「ムーミン」はかわいい柔らかな体を持っているため、もともとが柔らかいスタイルの生き物だという印象がありますが、トーベ・ヤンソン自身は「シャープさが失われた」という印象を持ったようです。
そのため耳を尖らせたり、ノンノンのリボンを無くしたり、「ムーミン」たちの顔を原作に近づけたりと、いろいろな変更をして対応したそうです。
けれどそれは日本の子どもたちをびっくりさせることになり、投書などにも「どうして絵が変更したのか」などと意見が書かれたり、「おもしろくなくなった」などと不評がわき起こったと言われています。
また平和主義・反戦主義のヤンソンにしてみたら、「昭和版ムーミン」にはほかに許せないことがあったそう。
ノー・カー(車を走らせない)
ノー・バイオレンス(暴力はダメ)
ノー・マニー(お金も持たない)
けれど、これらの世界観はヤンソンの原作ムーミンではしっかりと描かれていたこともあり、これらのクレームが本当にあったのかどうかは定かではないそう。
実際、トーベ・ヤンソンの世界観も全作に渡り一貫したものではなかったとみる専門家の意見もあるようです。
当方も購入してもらったヤンソン版のムーミンに、しっかり暴力などが描かれていたことを見ているので「?」という印象でした。
昭和版ムーミンは完全NGへ

出典:https://www.pakutaso.com/20170205034post-10266.html
こんな努力の陰で、トーベ・ヤンソン側からはあくまでもクレームは崩されず、結果「昭和ムーミン」の再放送や映像ソフトの販売などはできなくなりました。
この決定までに発売されたビデオソフトなどは、たまにオークションなどで取引されている様子が見られます。
おなじみのキャラをご紹介
主人公はムーミン・トロール

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日本では「カバのような」丸っこい体のムーミンは一体なんの動物なのだろう?ということが当時話題になりました。
前述したように、ムーミンの正式名称は「ムーミン・トロール」。北欧の妖精をトロールと呼びますが、ムーミン自身はトーベ・ヤンソンのオリジナルキャラクターだということ。
年齢は不明ですが、人間の年齢でいうと小学校低学年くらいかと予想されます。
そのため好奇心旺盛でいろいろな冒険をしますが、基本はとてもやさしく正義感にあふれ、素直な男の子キャラクターです。
ご近所の大人ともつきあいが深く、とても社交的な性格だとも言えます。盟友のスナフキンと互角につきあうことができるなど、男らしい一面もあります。
女優の岸田今日子さんが声優を務めたことで、はずかしがり屋だけれど、頑固なところもあるムーミンのキャラクターはより深みを増し、子どもたちに愛される一因となりましたね。
ムーミンパパとママ

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そんなムーミンを育てたのが、小説家で博識家だけれど決して偉ぶってばかりはいないロマンチストのパパ、優しくて料理上手な良妻賢母のママです。
パパはほとんど常にシルクハットをかぶり、パイプの愛用者。「昭和ムーミン」では喫煙シーンもありますが、「平成版ムーミン」ではくわえているだけのシーンで終止しているよう。
ママは、赤と白のストライプのエプロンを常用。お料理好きなイメージの反面、お出かけのときにはハンドバッグも着用するなどおしゃれにも気を使っています。
このムーミンにしてこの親あり。穏やかでホッとするムーミン一家の雰囲気を子どもの頃に憧れた大人たちはたくさんいるのではないでしょうか?
ムーミン谷の隣人たち(1)

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「昭和ムーミン」ではノンノン、「平成版」ではフローレンと呼ばれる女の子。原作では「スノークのお嬢さん」というだけで、ノーネームだそう。
「昭和ムーミン」では大きなリボンがつけられたこともありましたが、やがてなくなりました。足のアクセサリー(アンクレット)と金髪の前髪がかわいらしく、ムーミンのガールフレンドという設定です。
そのノンノンのお兄さんがスノーク。印象的な広川太一郎節とも言える言い回しは、主役をくってしまうほど話題になりました。アカデミックで良家のスノーク家にぴったりの「バッハ」のようなカツラが特徴的。ムーミンパパにちょっとライバル心があるようなところも意外にお茶目で、憎めないキャラクターです。
オリジナルのムーミンにもなくてはならなうキャラクターが、「ちびのミイ」。声は堀絢子さん。いじわるそうな表情をしているけれど、実はいつもなかよし。原作では「ミムラ」はミイのお母さんだけれど、「昭和ムーミン」ではお姉さん。いたずら好きで生意気なところもあるミイをいさめたりする良識派。
ムーミン谷の隣人たち(2)

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なかよしのスニフは、意外にも富田耕生さんの声。富田さんはいつも堂々としたキャラクターを演じていますが、さすがの演技力で、小心者でやさしいスニフのキャラクターをより広げてくれています。ツチブタがモデルとも言われています。
ムーミン型とは違い、ムーミン谷に住む「人型」の居住者、それがスナフキンです。自然と孤独を愛するキャラクターで、「昭和版ムーミン」ではギターを携えて登場しています。春の訪れとともにムーミン谷に戻り、冬の前に南に移動する渡り鳥のような生活形態は、「昭和版ムーミン」のラストでも重要な別れのシーンとして印象的に描かれます。ときに、子どもっぽいムーミンをいさめる姿は、ムーミンパパとともに視聴者の子どもたちに道徳的ないましめを与える存在として重要な役目を果たしています。
なくてはならないその他のキャラ

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「バカボンのパパ」役で有名な雨森雅司さんの声が印象的なヘムレンさん、「昭和版ムーミン」ではチョウを愛する昆虫学者として登場します。
昭和アニメで特異なキャラクターを演じることが多い八奈見乗児さんが演じるジャコウネズミ、「無駄じゃ無駄じゃ」と厭世的なセリフを常に言う人物。哲学書を常に開いてハンモックに寝そべるちょっと変わり者。
中性的ないでたちのおしゃまさん。赤と白のシマのセーターを着る、こちらもスナフキン同様にムーミン谷には珍しい「人型」の登場人物です。原作者のトーベ・ヤンソンがモデルと言われています。アコーディオンを演奏することもあります。
ムーミン谷にはまた珍しい生き物も生活していますが、中でもニョロニョロは1匹だけではなく大勢で登場することが多いですね。白くて細長い単純な形の生き物ですが、大きな目と手だけは確認できます。ほとんど表情はわからず言語も持たないようですが、電気を蓄え放電することもありました。
そのほかにも、雪男の「モラン」、「飛行鬼」、ビトンビトンと飛び跳ねる「スティンキー:、双子の「トフスとビフス」、大事件で活躍する「所長さん」など、たくさんの愛されキャラが登場した「昭和版ムーミン」です。
音楽も素晴らしい

出典:http://www.dailymotion.com/video/x57y0pb_%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%B3-1972%E5%B9%B4%E7%89%88-op-ed_tv
音楽は昭和のん本のドラマや映画などで活躍した宇野誠一郎さんの作品です。有名なところでは「ひょっこりひょうたん島」や「サザエさん」の音楽も彼の手によるものです。
穏やかな中にもホロリとくるような優しさのあふれた音楽が特徴的でした。
昭和版ムーミンを見たい人への耳より情報
過去のビデオはネットオークションなどで

出典:https://www.pakutaso.com/20150848217post-5854.html
そういった理由で、残念ながら「昭和版ムーミン」は制作販売を打ち切った以後は作られておらず、現在手に入るものは主にそれ以前に販売されたビデオなどがときおりオークションなどで流通するだけとなってしまいました。
動画サイトで
『それでは「昭和版ムーミン」は全く見られないの??』とお嘆きのあなた。安心してください。
著作権侵害の問題はあるものの、「昭和版ムーミン」をお持ちの有志が動画サイトなどに上げている場合がありますので、丹念に検索するとヒットすることがあります。
意外に狙い目なのは、「Daily Motion」。
それでも削除されてしまうことがありますので、「昭和版ムーミン」をしっかり目に焼き付けるために早めにご覧いただく方法しかありません。
ちなみに、動画の違法ダウンロードは2012年10月より刑事罰の対象ですので、ご注意ください。視聴するだけは違法にはならないとのこと。
DVD販売はなし
そういったわけで、DVDやブルーレイの販売もされていません。
いつか栄作だった「昭和版ムーミン」の全話が法律に則って販売されると良いのですが、今のところ実現は難しそうです。